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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)821号 判決

控訴人

大阪高等検察庁検察官検事長

瀧川幹雄

被控訴人

山渕正樹

被控訴人

山渕真奈美

被控訴人

山渕正仁

右三名法定代理人

山渕としみ

右訴訟代理人

土井憲三

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人は、主位的に主文と同旨の、予備的に「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、「本件控訴を棄却する」控訴費用は国庫の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人)

韓国民法八六四条は日本民法七八七条の規定と対比して認知請求権者に一概に不利益なものとはいえないから法例三〇条にいう公序に反するときにあたらず、本件における具体的適用の結果も同様わが国の公序に反するものとは認め難い。従つて本件訴は韓国民法八六四条所定の出訴期間を経過した後に提起されたものとして却下されるべきであり、然らずとしても認知請求権の消滅によりその理由を欠くものとして棄却を免れない。

(被控訴人ら)

法例三〇条にいう公序良俗の判断は事案に応じ具体的になすべきところ、本件において亡金載福のような国籍以外日本人と全く変わらない者にまで一律に韓国民法を適用し、認知の要件を欠くとするのは公序に反するといわなければならない。

理由

一被控訴人らが日本人であり、金載福が韓国人で昭和五一年五月二一日に死亡したこと、被控訴人ら及びその法定代理人が同日金の死亡を知つたことは、原判決四枚目裏三行目から同一一行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。

二本件認知については法例一八条一項により、父であると主張する亡金載福については死亡当時の本国と認められる韓国の法律が、子である被控訴人らについては日本の民法がそれぞれ準拠法として適用されるところ、本件訴の提起は昭和五三年一二月二五日であることが記録上明らかであり、従つて韓国民法八六四条に定める死後認知の場合の出訴期間一年を経過していることが明白である。

ところで、認知に関する日本民法及び韓国民法を対比検討すると、いずれも父死後の強制認知を認めていてこの点両法制間に相矛盾する要素はなく、ただ出訴期間の定め方において差異があり、一般的には日本民法七八七条の出訴期間である父又は母の死亡日から三年が韓国民法八六四条のそれよりも長いといいうるとしても、具体的事案によつては死亡を知つた日より一年と定める韓国民法の方が死亡後三年を経過した後においても訴の提起が許される場合のあることも考えられるのであつて、認知請求権者である子にとつても一概にいずれが利益不利益かを即断し難いものがある。

三そして前記引用部分掲記の各証拠及び原審証人辻本廣子の証言によれば、亡金載福は通称を佐藤福一郎といい、一九三三年(昭和八年)六月二八日に大分県別府市内で生まれ、幼少時に韓国に帰つた両親と生別し、佐藤トキ子に引き取られて養育されたこと、その後両親との音信も不通で、死亡するまで韓国へは一度も行つたことがなく、日常使用する言葉も日本語のみで韓国語の読み書きはできず、また生前日本に帰化して永住する意思を有していたことが認められるけれども、しかし法例が属人法決定の基準として当事者の国籍に拠つている以上、金載福の属人法は既述のとおり韓国法であり、更に死後認知に関する彼我の法制の違いが前記の程度でむしろ技術的問題にすぎず、これら訴提起期間の制限も身分関係に伴う法的安定保持のために不合理となし難いことなどを考慮すると、わが国の死後認知に関する出訴期間の規定は、本来の準拠外国法である韓国民法の適用を排除してまでも実現すべき強度の法目的を有するものとは考えられず、本件においても韓国民法の前記出訴期間を一年と限定した規定の適用の結果がわが国の公序良俗に反するものとはいまだ認めることができない(最高裁第二小法廷昭和五〇年六月二七日判決参照)。

四そうすると、本件認知の訴は、子である被控訴人らの関係では出訴期間内に提起されたものの、父たるべき亡金載福の関係で出訴期間を徒過しており、結局認知の成立要件を具備していない不適法なものといわなければならない。

よつて、本訴請求を認容した原判決は失当であるから、これを取消して本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(黒川正昭 志水義文 森野俊彦)

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